名前は、まだない。

you can ( not ) redo.

京都アニメーション放火事件への極私的な想い

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京都・出町柳商店街にて



www3.nhk.or.jp

 

 京都アニメーションが放火に遭い、多くの死傷者が出た。
亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、負傷された方の快復を心よりお祈り申し上げます。

 

ただ、ただひたすらに悲しい出来事である。
”落雷に当たったとでも思うしかない”という呟きがあったが、まさにそんな感じだ。

 

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京アニと言えば美麗な作画や秀逸な演出などで名を馳せるアニメーション制作会社であり、様々なヒット作品を手掛ける。そこで働くアニメーターたちの貴重な命が…という”いのちの重さ/価値”的な話で相模原市の障害者施設殺傷事件と比較するような話もある。 

もちろんすべて国民は法の下で平等であり、誰であろうと生きる価値はあり、失われていい命があるわけではない。

ネット上でそのような話が散見されるのは、ネット文化とアニメ文化が親和性のある文化だからだと思うし、自分との”距離”の問題だと感じる。仲良かったクラスの友達が夭折するのと、父方の大叔父が亡くなったのと、どっちがより自分にとって悲しいのかと似たような話な気がする。同じ命だが、より悲痛な思いが募るのは関わりのあった人間のほうだろう。

声をデカく出した方が勝ちみたいな態度がある中で、よりシンパシーを感じる方に対してデカい声を出すがためにこの件への反応がより可視化されてしまい、距離の問題と絡んで相模原との比較の話や反応の違いが出たのではなかろうか。わからない、インターネット評論家ではないので。

(7/21追記)
「価値のあるなし」について、正しい例かどうか分からんけど馬を例にしたい。
 
東京優駿に出走できる馬は、同年産まれ約7000頭弱から18頭のみだ。白地に黒文字のゼッケンを纏うことを許された、誉れの18頭である。東京競馬場第11競走芝コース2400mを走ることができるこれら18頭が馬界のヒエラルキーにおいては、同世代トップの位置にいると一応なされている。ではそれ以外の馬はすごくないのか、価値がないのか生産性がないのかと言われたら、そういう訳では無い。競走馬にも適正はあり、短距離戦が得意な馬、マイル戦あたりが得意な馬、あるいは芝コースよりダートコースが向いてる馬など、様々なタイプの競走馬がいる。
 
競走馬としては思うような成果を出せずに競走生活を引退したが、アニマルセラピーの世界や乗馬の世界で活路を見いだせた馬もいることだろう。
 
どの馬にも価値はあり、その価値が上手く発揮出来たのが競走であったり、乗馬だったり、セラピーだったりする。
 
今回の"貴重な人を…"というのは、今回亡くなられた方の価値がアニメーションの作画というある種分かりやすい形で消費者に提示されていただけに、これだけの共感と悲嘆を呼び起こしたと思われる。
障害のあるなしにかかわらず、生産性という言葉で区切ってしまうのは非常に危険な考え方だ。これを書いている僕自身もいつ社会的な生産能力を失い、この生産性のラインから零れ落ちて「価値なし」の烙印を押されるかわからない。僕らはみな同じ地平にいて、その地平からみな転げ落ちる可能性を孕んでいる。そのようなことをできるだけ防ぐ、あるいは転げ落ちても大丈夫/再度戻ってその人の価値を発揮できる社会を目指していくことは、ひいては自分の身を助けることにも繋がってくる。1億総活躍社会とは、そういうことではなかったのか。

 

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京アニ作品に触れたのは『氷菓』からか『けいおん!!』からか、どちらかだったと思う。それから『涼宮ハルヒの憂鬱』を観て、『たまこまーけっと』『たまこラブストーリー』『境界の彼方』『響け!ユーフォニアム』『聲の形』…と。中高生時代観ていたアニメ作品のほとんどは京都アニメーションが製作を手掛けている。僕の薄っぺらい青春は京アニに形作られたといっても過言ではない。

これらのアニメ作品を通じて他にも様々な素晴らしい作品に出合わせてくれた。作品のバックボーンなどをもっと知りたいと思わせるような脚本・演出があったことでそのような探求心も生まれた。特に『たまこまーけっと』『たまこラブストーリー』で描かれた京都の街並みに心惹かれ、何度も京都へ足を運ぶようにもなった。『響け!ユーフォニアム』を通じて様々な吹奏楽の楽曲やクラシックの楽曲を知り、演奏会へもお邪魔したり大学の交響楽団のコンサートにも参加したりで、自身の音楽的教養みたいなものが深まった気がする。

 

改めて、部屋にしまってあった劇場版『響け!ユーフォニアム』のパンフレットのスタッフクレジット欄を見た。監督の石原立也さんを始め、演出の山田尚子氏、『氷菓』の監督も務めた武本康弘氏、作画監督池田晶子氏など著名な方もおられる中、これから名を上げていくであろうたくさんの(若手)スタッフも製作に参加している。これだけ熱量のある作品を生み出すのだから、多くの社員がコミットしているのは当たり前なんだけれども、フロントに出てくる著名な方々の名前の前に、彼らのことを見逃しそうになる。このスタッフクレジットの中のどれだけの人が今回の火災で死傷してしまったのかは分からないが、とにかく多くの人が夭折された。できればこれら一連の出来事が夢の中の話で済んでほしかった。

 

ただひたすらに悲しい。