吾輩は猫である。名前は…
僕の家には昔、黒猫がいたという。
名前は「クロマティ」
当時活躍していた助っ人外国人プロ野球選手と、毛の色合いとをかけて名付けられた。
時に名前とは呪いのようであり名付けられたモノの人生を縛りつける。
彼の名前もそうであり、僕の名前もそうである。
「黒猫が目の前を横切ると不吉なことが起こる」とはよく言ったもので。
我が家の空気の澱んだ感じはこの家の中を幾度となく歩き回ったことに起因しているのではないかと疑うときもある。
彼はとても長生きだった。
15年生きたという。ただ亡骸もなければ墓もない。
彼は最期をどこで迎えたのか、誰も知らない。
いつの間にか出ていった。
孤独を愛しているかのような素振りをしつつも実は誰かからの愛情を求めているその姿は、実に人間らしく僕の目には映る。
命日が分からない彼を、今日くらい偲んでも化けて出てきやしないだろう。
ましてや、目の前を横切るなんて、ね。